近年、M&Aや株主に係る紛争は、理由は異なるものの、仲裁や訴訟に発展するケースが増えてきている。M&A関連の紛争においては、取締役や経営者は善管注意義務・忠実義務を果たすため、経営上の専門的判断を下すために必要な調査を行う義務があり、多くの場合、たとえ1億円程度の取引価格の回収のためであっても、その合理性について分析、評価しなければならない。株主間紛争については、何よりも透明性が高まり、株主が自らの権利を行使し、経済的地位を最大化しようとする意識が高まっていることが、紛争の火種になっている。

損害算定の観点からは、M&Aと株主間紛争の仲裁は性質の異なるものである。M&A紛争の仲裁における損害算定では、会計、フォレンジック又はコーポレートファイナンスの視点からの分析が中心であり、そこにバリュエーションの問題が加わることもある。一方、株主間紛争における損害算定は、特定の事業のより正確なバリュエーションが問題となることがほとんどであり、バリュエーションの方法論が中心的な論点となる。

本稿では、M&A紛争における損害算定の論点について解説する。