Interview
アルムナイ・インタビュー
経営者への修業場で、胆力を培う。
小川 省一郎
サンファーマ株式会社 代表取締役社長
経営者になるための修業場へ

小川省一郎氏は、AlixPartnersで過ごした2年間を「経営者になるための修業場だった」と振り返る。現在はインド発祥のグローバル製薬企業、サンファーマの代表取締役社長として日本法人の変革を率いる立場だ。かつて長期収載品やジェネリックを中心に事業を展開してきた同社だが、近年は新薬ビジネスへの転換を進めている。小川氏が担うのは、日本市場における変革の完遂。加えてグローバルで進む大型買収に伴い、日本における統合作業も今後の重要なミッションになる。
小川氏は、鉄道会社、戦略コンサルティングファーム、複数の外資系製薬企業を経て、2023年にAlixPartnersへ参画した。18年ぶりにコンサルティングの現場へ戻ったときに驚いたのは、PEファンドがこれほどまでにコンサルファームを活用している実態だったという。「評価や実行のかなりの部分をコンサルタントが担っている。非常に分業が進んでいると感じました。」
難局を知るからこそ生まれた、いまの余裕
小川氏は、AlixPartnersを「ラストリゾート(最後の依頼先)」と位置づける。相応のフィーを支払ってでも支援を求める背景には、クライアントにとって本当に重要で、失敗できない重大局面が訪れている事情がある。その期待を一身に背負う以上、結果を必ず出す覚悟が求められる。
「肝の据わったコンサルタントしかいないのがAlixPartnersなのだと思います。きれいごとでは済ませない。実行までやり切る。だからこそ、本気で改革できる人間になりたい人には、最高の修業場でしょう。」
AlixPartnersでの経験は、現在の経営にも直結している。サンファーマでは、開発、営業、ファイナンス、人事など、幅広い課題に向き合うが、AlixPartnersへの依頼が必要なほど危機的状況にあるわけではない。しかし、AlixPartnersでコンサルタントとしてクリティカルな局面を連続して経験したことが、経営者の余裕を生んでいる。
「経営における最も厳しい場面を知っているから、起こりつつある課題にも動じません。コンサルタントだった当時は完全な主導権がないにもかかわらず、大きな責任と厳格な期限があり、必ず成果を出さなければならない厳しさがあった。でも、経営者である今は自分がパイロット席に座っています。そう考えると、社長のほうがずっとやりやすいですね。」


鳥の目と虫の目を行き来するハンズオンが、経営者の余裕を生む
小川氏は、AlixPartnersの独自性が今感じる経営者の余裕を生み出しているという。どの年次のプロフェッショナルも徹底してハンズオンであるスタイルだ。
「自分は50代でAlixPartnersに入り、パートナーの立場でありながら自らExcelを回し、PowerPointを作っていました。どんなに年齢が上になっても、基本はハンズオン。クライアントの社長や本部長クラスと会社全体の戦略を議論する『鳥の目』を持つ一方で、現場でインタビューをし、自らデータを分析し、『虫の目』で細部を突き詰める。この視点の上下動の大きさは、AlixPartnersならではのものです。事業会社では視点が固定されがちですが、AlixPartnersでは全体像と詳細の両方を見る癖がつき、非常に鍛えられました。」
鳥の目で全体を捉え、虫の目で現場に踏み込み、自分の手で動かす。この往復の経験が積み重なったからこそ、今の経営において難局を前にしても余裕を保てるようになった。
外部から本気で向き合うからこそ磨かれた胆力
その余裕の裏には、外部の立場から修羅場に飛び込み、人と組織に本気で向き合い続けた経験がある。
AlixPartners時代の印象に残っているプロジェクトとして、小川氏は大手素材メーカーの大規模な組織改革を挙げる。数千人規模の間接部門を対象に、業務量や人員配置を見極め、適正化を進める案件だった。
このプロジェクトの中で、小川氏は、数字やデータだけでは組織は動かず、最終的には人を動かし切ることが求められるという現実に向き合った。人間は「情」の生き物であり、理屈は後付けであることを痛感したという。
会社には会社ごとの事情があり、部署の歴史や現場のプライド、組合の存在など、数字には現れない「情」のレイヤーが折り重なっている。
「財務的な観点やベンチマーク分析に基づいて、人員削減の必要性という『理』を説明することはできます。しかし、データはあくまで材料にすぎません。結局は、経営層から現場の社員、組合に至るまで、すべての人を説得しなければならない。その時に重要になるのが『情』です。特に現場に近い人ほど、プライドという『情』で仕事をしています。彼らを理屈だけで動かそうとしても、『頭では分かるが、絶対に従わない』という反発を招くだけです。」
「外部のコンサルタントという立場でありながら、社内の人間以上に情熱を込めて、時にはハートで語りかけました。『これはあなたのために言っているんです』という本気度が伝わって初めて、相手は聞く耳を持ってくれる。そして、ようやく『理』が意味を持つのです。外部の人間だからこそ、本気で向き合う姿勢が問われる。いかに本気になれるか、という点で大きな学びになりました。」
小川氏にとってのキャリアとは「誰かの役に立つこと」だ。自分がどこまで役に立てる人間になれるか。それが、キャリアを選ぶ基準になってきた。サンファーマで進める新薬ビジネスへの転換や今後の統合も、小川氏にとっては新たな「役に立つ」機会である。何が来ても驚かず、必要な局面で力を出す。こうした経営者としての胆力は、最も厳しい修業の場で培われた。

略歴
東京大学卒業後、東日本旅客鉄道、戦略コンサルティングファームを経て製薬業界へ。ヤンセンファーマ、アボットジャパン、アッヴィ、アルコンファーマ、ノバルティスファーマ、ブリストル・マイヤーズ スクイブなどで事業部長や社長等を歴任。2023年よりAlixPartnersに参画し、2025年4月、サンファーマ株式会社代表取締役社長に就任。
撮影:桑嶋 燦