Interview

アルムナイ・インタビュー

プロの経営者は、打席に立って磨かれる。

榊 淳
株式会社一休 代表取締役社長

Jun Sakaki, President and CEO, Ikkyu Co., Ltd

打席に立つ側へ──戦略を「売る」のではなく、結果を「出す」仕事を選んだ

高級ホテル・レストラン予約サイト「一休.com」を手掛ける株式会社一休。創業者からのバトンを受け取って10年、同社を率いる榊氏がAlixPartnersで得た最大の機会は、経営者としての「打席」に立つことだった。

AlixPartnersへの入社前、戦略コンサルティングファームで7年ほど経験を積んだ榊氏は、戦略を描く仕事に一定の手応えを得ていた。だが、シニアになるにつれて、コンサルタントの仕事はプロジェクトを「売る」側に比重が移っていく。榊氏が強く関心を抱いていたのは、売ることではなく、実行することだった。

「戦略をひと通り作る経験は積みました。ただ、具体的な結果をデリバリーすること、リアルに利益を上げること、組織をどうモビライズするかに興味が増していったのです」

その思いから、AlixPartnersへ参画した。当時の東京オフィスは、開設4年目。事業再生、ターンアラウンド、フォレンジックなど、目の前にある経営上の難題に対して、徹底的に向き合う雰囲気があったという。

一休のターンアラウンド──現場に入り、価値と伸びしろを見極める

榊氏にとって最もAlixPartnersらしい経験となったのが、当時はクライアントであった一休のターンアラウンドだ。当時の一休は、一定の利益を出しながらも成長が止まり、会社の価値が十分に評価されていなかった。競合は伸びている。創業社長は、何とかもう一度成長軌道に乗せたいと考えていた。

榊氏は一人で組織に入っていき、まずは業績について理解し、社員に話を聞いた。なぜ伸び悩んでいるのか。どうすれば成長できるのか。複数の意見を聞きながら、語られたどのストーリーに最も信ぴょう性があるのかを見極めていく。

一休には、十分な伸びしろがある。そう確信を持てた理由が二つある。まず、市場が伸びていたこと。そして、社員自身が変わることをいとわず、会社を成長させたいという強い意思を持っていたことだ。

「一休が掲げる『こころに贅沢させよう。』という価値を広げることに、多くの社員が意義を感じていたんです」


Jun Sakaki, President and CEO, Ikkyu Co., Ltd
Jun Sakaki, President and CEO, Ikkyu Co., Ltd

 

素敵な宿や食の空間で気の合う人と過ごす豊かな時間の提供が、世の中への貢献になる。加えて、空室や空席をマッチングで埋めることは、社会の損失を減らす行為でもある。そうした価値を信じていたのだ。

短期的に売上を上げるだけなら、広告を増やす手もある。だが、その手法はあえて採らず、ユーザー体験を損なう施策を徹底的に見直し、長期的な成長を目指した。まず、クイックヒットとなる施策で売上を支え、そのうえで高級予約サイトとしての体験を整えていった。数カ月後には、成果が見え始める。その後は右肩上がりの業績を続けた。

AlixPartnersでの経験は、現在の経営にもそのまま生きている。榊氏は「AlixPartnersのプロジェクトが12年続いていると思ってもらっていい」と語る。現場を見て、数字を見て、仮説を立て、議論を起こす。経営のトップに立っても、こうした仕事のスタイルは変わっていないからだ。

社員に考えてもらい、動いてもらうための材料として、榊氏は毎週末、膨大なレポートを自ら作成し、社員に向けて共有する。月曜朝の経営会議では、その資料を読んできた前提で議論が始まる。

いつでも経営者を替えられる、だからこそ結果で応える

榊氏は、今でも自身を「プロ経営者として雇われている」と捉える。自分の仕事は、一休の売上と利益に責任を持つこと。株主はいつでも経営者を替えられる。だからこそ、結果で応える。全権限を預かり、必ず結果を出す。それがプロ経営者の仕事だという。

事業会社において、経営者の打席に立つ機会は簡単には巡ってこない。たとえ優秀であっても、上のポジションが空かなければ任されない。打席に立たなければ、自分が来た球を打てるかどうかも分からない。

「39歳のときに、一休のターンアラウンドで打席に立たせてもらった。それが自分にとって幸運でした」。

AlixPartnersの経験は、経営者を目指す人にとって意味を持つ。その時に必須なのが「結果をデリバリーするという強い意志」だと榊氏は言う。正しいことを言うだけでは足りない。正論を示しても、相手に受け入れられなければ結果は出ない。これは、AlixPartnersでの経験を通じて学んだことでもある。大切なのは、クライアントが何を望み、何に喜び、どうすれば動くのかを徹底して考えることだ。

戦略を描く人から、結果を出す人へ。コンサルタントから、プロ経営者へ。榊氏の歩みは、打席に立ち、結果を出すことでしか開かれないキャリアの可能性を示している。

Jun Sakaki, President and CEO, Ikkyu Co., Ltd

略歴

慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。米スタンフォード大学大学院にてサイエンティフィック・コンピューティング修士課程修了。戦略コンサルティングファームを経て2009年よりAlixPartnersに参画。2013年株式会社一休入社、PL責任者として宿泊事業の再構築を担い、2014年副社長COO就任。2016年に代表取締役社長に就任。


撮影:熊谷 直子