では、公正取引委員会(公取委)により公表された令和2 年度における主要な企業結合事例10 件と、その他令和3 年中に公表された企業結合事例2 件について、それぞれのポイントをまとめた。
事例横断的に見たときのポイントは以下の通りである。
まず、一つ目のポイントとして、今回まとめた事例においては、製品差別化がされていない「同質財」が想定されるケースが多い印象である。おそらくその影響もあって、合算シェアが60% 以上となるような国内でシェアがかなり高まる水平型統合でも、無条件でクリアランスとなるケースが見られた。同質財のケースでは、製品差別化されているケースとは異なり、特に当事会社間の競争関係が注目されることなく、競争事業者の供給余力や、隣接市場からの競争圧力、輸入圧力、需要者からの競争圧力が認められやすいといえそうである。
他方、二つ目のポイントとして、水平型企業結合と比較して競争上の問題が少ないと考えられてきた垂直・混合型企業結合でも、シェアがかなり高まる場合には、問題解消措置を求められるリスクがある。当事会社は油断せず、例えば競争者排除の誘因が生じないことや、二重マージン化が解消されることなどの主張を、説得力のある分析・証拠とともに準備する必要がある。
三つ目に、以前からの傾向として、国際事案で、公取委だけでなく海外競争当局による審査が並行して進んでいる場合、海外競争当局に審査を主導されると、公取委においても厳しい問題解消措置が求められるリスクが高まる。今後、日本企業が公取委だけでなく海外でも競争当局による審査を受ける事案は増えることが考えられるところ、審査を公取委に主導させる戦略を含め、日本側が一層のコントロールを持ち案件を進める方法を模索すべきとも考えられる。
最後に、世界中で、デジタルプラットフォームに対する規制が強化されており、日本も例外ではないところ、プラットフォームが関与する企業結合事案に対する公取委の関心は高い。特に、公取委が審査の主導権を取りやすい国内のプラットフォーム同士の統合については、対公取委の対応策を事前に十分に練っておく必要がありそうである。プラットフォームのビジネスモデルの新規性や複雑性に鑑み、統合が競争を減殺しないことを、経済分析なども用いつつ、わかりやすく説得力をもって公取委に説明していくことの重要性が、当該分野については特に際立つといえる。