ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)は、自動車業界にとって大きなチャンスであると同時にリスクでもある。自動車がソフトウェアによって定義され、OTA(Over-the-Air)技術によって機能を生産、販売後にアップグレードできるようになると、自動車は車輪のついたスマートフォンにますます似てくる。この変化は、製品開発、車両販売とサービス、さらにはビジネスモデル全体にまで大きく影響を及ぼすだろう。
※本コンテンツはAutomotive Newsを日本語に翻訳したものです。

―SDVの登場により自動車に起きる本質的な変化は。また、この変化はどのようなタイムラインで進んでいくのか。

マーク・ウェイクフィールド:
100年以上もの間、自動車業界と顧客との関係は、自動車の設計や製造、販売後の顧客とディーラーとの関係性に大きく依存してきた。この関係性は、自動車のソフトウェアコンテンツが増加し、その多くが電子制御ユニット(ECU)にコード化されるようになっても続いてきた。

SDVは機械と電気機械の機能を統合し、ソフトウェアでそれらを変更できるため、既存のモデルを破壊するだろう。ソフトウェアはエレクトロニクスと統合されていなく、代わりに、ハードウェアの開発とは切り離されている。新しいモデルは「Car-as-a-platform(プラットフォームとしての自動車)」というコンセプトを可能にし、エンドユーザーとの新しい関係を作り出せる。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
SDVに関する大きな問いは、「もし」という仮定の話ではなく「どのタイミングか」である。OEM、ティア1サプライヤー、テクノロジー業界の幹部180人を対象に実施したアリックスパートナーズのSDV調査では、回答者全体の70%が「4年以内にSDVが市場で提供される」と予想している。

―自動車業界はSDVにどのように取り組んでいるのか。また、それらの取り組みはテクノロジー企業の戦略とどのように違うのか。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
自動車業界とテクノロジー業界では、準備の進捗に差がある。弊社はSDVの定義、開発における戦略、進捗状況等を把握するために、北米のSDV関連の主要セクター(OEM、Tier-1サプライヤー、テクノロジー企業)の経営幹部200人を対象に調査(以下、SDV調査)を行いました。SDV調査では、OEMとサプライヤーのうち、「SDVへの十分な準備ができている」と答えたのは26%に過ぎなかったのに対し、テクノロジー企業は高い準備レベルであった。テクノロジー企業は、アジャイルソフトウェア開発、デジタル製品開発、高性能コンピューティングなどの分野での経験を活用して準備を進めている。

マーク・ウェイクフィールド:
自動車業界は一般的に、破壊的なイノベーションではなく、継続的な改善を重視してきた。このため、SDVにおいてはユーザーエクスペリエンスや品質、保証に関するような短期的な取り組みを優先する傾向がある。OEMが現在注力しているOTAアップグレード機能は多くの場合、エンジン性能、品質修正、インフォテインメントといった基礎要素である。

―自動車業界とテクノロジー業界のギャップはどのように埋められるのか。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
ビジネスモデルの見直しが必要である。そのためには、両者はそれぞれの役割と差別化を維持しながら、コラボレーションを促進することが重要。安全性や安心感に対する顧客の要求への対応や車両エンジニアリング、インテグレーションの管理方法など、自動車業界にはテクノロジー業界に伝えられる知恵や経験がある。結局のところ、iPhoneがクラッシュしたり、起動しなくなったりしても、それで世界が終わるわけではない。一方で、自動車が壊れたり、エンジンがかからないと、それはまったく別の話になるだろう。

マーク・ウェイクフィールド:
自動車業界はテクノロジー業界から学ぶ必要がある。サプライヤーがこの移行において大きな役割を果たすと見ている。SDV調査では、サプライヤーの3分の2が「テクノロジー企業とのパートナーシップ」を目指している。このパートナーシップは、OEMがサプライヤーに課す新たなコストプレッシャーを軽減するだけでなく、新たに形成されつつあるエコシステムにおけるサプライヤーの役割を高める可能性がある。

―自動車業界とテクノロジー企業は、しばしば対立する関係にあると見られている。両者の関係はどうなるのか。

マーク・ウェイクフィールド:
緊張関係は無くならないだろう。長年にわたって収斂してきたとはいえ、自動車とテクノロジー業界はまったく異なる産業であり、それぞれに強みと制約がある。

SDVへの注目が高まる中、自動車業界は、多くの点でテクノロジー業界を模倣するのが賢明だ。たとえば、経常収益やソフトウェアによるパーソナライゼーションなど、新しいビジネスモデルをフレッシュな視点で深く検討するのは有効だろう。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
その問題に対する万能の答えはない。たとえば、テストや立ち上げでは、企業のタイプによってアプローチが異なる。SDV調査によれば、人工知能(AI)に精通しているテクノロジー企業は、テスト段階で機械学習の活用を好むが、自動車の回答者は傾向が違った。一方、ソフトウェアの形態については、OEMは製品の差別化を実現できるプロプライエタリ・ソフトウェア(私有ソフトウェア)を好むと回答したのに対し、サプライヤーとテクノロジー企業は、燃費効率やコスト削減のために、オープンソース・ソフトウェアの方を支持している。

―人材獲得やその他の当面の課題に対して有効な戦略は。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
テクノロジー企業は、新しいエコシステムに貴重なスキルと独自のネットワークをもたらす。しかし、彼らは、自動車工学や製造、カスタマーサービスは簡単には習得できないという事実を真摯に向き合う必要がある。

マーク・ウェイクフィールド:
人材に関しては、検討すべき問題と方針がある。OEMは、人材を惹きつけ、維持するために、主に報酬に重点しているが、新しく形成されているエコシステムにおいては、企業はまず、従業員や採用者に魅力的なビジョンを提示すべきだ。

―SDV戦略を設計する企業はどのようなロードマップを持つべきか。

マーク・ウェイクフィールド:
まずは"産業の知恵 "を近代化することだ。SDVに必要な機能を取り入れることは、従来とまったく異なる車両のアーキテクチャーの構築を伴い、これは新たな収益モデルを可能にする。消費者の期待に応えつつ、生産・製造のリスクを軽減し、新たなイノベーションを加速するのは、途方もないチャレンジだ。サプライヤーにとっては、標準化を推進しながら、適正な利益を確保できる革新的な製品を生み出すことが最優先課題となる。これらの目標を達成するために、OEMとサプライヤーはテクノロジー企業のように考えなければならない。

ヒマンシュウ・カンデルワル:
OEM、サプライヤー、テクノロジー企業は、共通のビジョンのもと、業界横断的な標準化を目指して協働する必要がある。具体的には、性能と機能のロードマップ、事業展開のタイムライン、ソフトウェアとハードウェアの同期の調整などの分野で足並みを揃えることが重要。新しいSDVエコシステムでは、すべてのプレイヤーが自動車とテクノロジー業界に足を踏み入れる。これは単純に理解はできるが、実行するのは非常に難しい。