インフレ時代の経営において、価格戦略はもはや「選択肢」ではなく「必須条件」です。日本のインフレ率は202510月に3%へ上昇し、長く続いたデフレを完全に脱却しました。企業が利益を守り成長するには、値上げを単なるコスト転嫁ではなく、利益拡大の機会と捉える視点が不可欠です。プライシングの第一人者である当社パートナー&マネージングディレクターの山城が、インフレ時代の価格戦略の本質と実践のヒントを解説します。

【この記事のポイント】
・値上げは単なるコスト転嫁ではなく、利益構造を強化する機会。値上げをやり切る組織力の差が、企業間の収益格差を決定づける。

・値上げ時に顧客の反発を最小化し、理解を得るコミュニケーションのポイントは、一貫性のある明快なメッセージ、精確かつ差別化された価格改定、正当な根拠の提示、明確な価値訴求。

・コストベースの価格設定を「価値ベース」に移行させる鍵は、「マーケットイン」の発想で顧客の支払意思を起点に考え、価格弾力性を把握する専門ノウハウを習得し、売上至上主義を捨てて利益最大化を目指すこと。


Q1.  インフレ時代における値上げの意味は?

インフレをカバーできるだけの値上げができない企業は淘汰されます。値上げは単なるコスト転嫁ではなく、利益を拡大するための貴重な機会です。値上げ幅を最適化することで、企業は競争力を維持しながら収益性を高めることができます。


Q2.  プライシング改善による利益率(ROS)の向上幅は?

私が手掛けた150以上のプロジェクトの経験から、プライシングだけで25%ポイントのROS改善が期待できます。例えば、プライシングで5%ポイント改善できる場合、対象売上が100億円なら毎年5億円、1000億円なら50億円、1兆円なら500億円の追加利益が得られる計算です。


Q3.  価格戦略はどこから着手すべきですか?

ケースバイケースになるのが実情です。しかし、一般論でいえば、B2CB2Bで有効なアプローチが異なります。

一般的な消費財を扱うB2Cの場合、「希望小売価格や参考価格の最適化」から手をつけるべきだと考えます。なぜなら、これらの最適化を飛ばして流通との取引価格の変更に踏み込むと、メーカーと流通との間での利益の取り合い、すなわちゼロサムゲームに陥りやすく、実行のハードルが非常に高くなるためです。

一方で、産業財を扱うB2Bの場合、もし補修部品やアフターサービスが存在するのであれば、この分野のプライシング改善を先に検討すべきです。本体のプライシング戦略に手をつけるよりも相対的に実行のハードルが低く、かつ利益の改善幅も本体に比べて遥かに大きいという特徴があるからです。この領域で「アーリーサクセス」を勝ち取り、その成功体験を本体へと横展開していくやり方が、大きな利益を創出する上で非常に有効だと考えられます。


Q4.  値上げ時に顧客の反発を最小化し、理解を得るための効果的なコミュニケーション戦略は?

コミュニケーション戦略には4つの要素が不可欠です。1つ目は、一貫性のある明確なコミュニケーションです。特に「一貫性」は非常に重要で、メッセージがぶれないことが顧客の信頼を維持する上で大切になります。

2つ目は、精確かつ差別化された価格設定を行うことです。これは直接的なコミュニケーションではありませんが、一律の値上げではなく、製品ごと、サービスごと、あるいは顧客ごとに考え抜かれた価格改定を行うことが、顧客の納得感に大きく関わってきます。

3つ目は、価格改定の正当な根拠を提示することです。私の過去のプロジェクトでも、コスト増を理由としない価格改定はほとんどありません。コスト増という事実を、いかに説得力のある形で準備できるかが重要です。

最後の4つ目は、明確な価値訴求です。値上げの話は当然顧客に喜ばれませんが、交渉の最後の心の拠り所となるのは、自社の製品・サービスの価値です。この価値をいかに効果的に顧客とコミュニケーションできるかが、価格交渉の是非を握っていると私は考えています。


Q5.  価格設定をコストベースではなく「価値ベース」に移行させるための鍵は何か?

つあります。1つ目に、発想を「プロダクトアウト」から「マーケットイン」に転換することです。これは、先に顧客の支払い意思ありきでプライシングを考えるということに他なりません。自社の製品やサービスの論理ではなく、顧客がいくらなら支払うかという視点を起点にすることが、価値ベースへの第一歩です。

2つ目に、専門的なプライシングのノウハウを習得することです。プライシングには、顧客の支払い意思や価格の弾力性を導き出すといった、テクニカルなスキルが必要になります。これらの専門知識を組織として身につけることが、価格設定の精度を高める上で不可欠です。

そして3つ目に、売上や市場シェア至上主義ではなく、利益の最大化を常に目指すことです。利益に目を向ければ、自ずと製品やサービスの価値を測り、その価値に応じた価格設定を行うという行動様式につながっていきます。

これらの3つの点が、価値ベースへの移行を成功させるためのキーになると考えます。


Q6.  2026年に向けた見通しは?

2026年はプライシングの重要性がさらに高まる年です。値上げを適切に実行できる企業とそうでない企業で、利益格差が大きく広がります。


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