Interview
アルムナイ・インタビュー
空気をあえて読まない姿勢が、経営の目線を鍛えた。
林 隆太
ENEOSホールディングス株式会社 執行理事 Chief of Staff
PEファンドの世界を「怖いもの見たさ」で知りたい

3万人を超える社員を擁するENEOSグループ。その持株会社で、林 隆太氏はグループ全体の経営企画機能を率い、CEOに直接レポートする役割を担う。日々、CEOと経営課題を議論し、ときに経営陣へ提言を出す諮問組織の責任者だ。
キャリアの出発点は通信の技術者だった。国際海底ケーブル建設などに携わるなか、2000年代初めのITバブル崩壊によって優秀な技術者がレイオフされていく姿を目にする。「いくら技術が素晴らしくても、経営力がない企業では社員が幸せになれない」。
そこで、自身で経営を学ぶためUCLAへMBA留学。帰国後は戦略コンサルティングファームに約9年間勤めた。最後に担当したのが、後に入社するENEOSの前身企業による電力小売事業への参入プロジェクトだった。電力自由化の旗印のもと、通信、ガス、石油、鉄道、インターネット企業が一斉に参入を狙う「異業種格闘技戦」のような市場である。
「コンサルタントとしてサポートするより、自分がフィールドに立ってプレイしたくなった」という林氏は、自ら書いた事業計画を手に事業会社へ移った。
電力事業の立ち上げに約10年を要した。小売販売の最前線で顧客獲得を指揮し、現在は年間200~300億円規模の収益を生むまでに育った。悲願であった大型火力発電所の完成を見届けた後、ENEOSを離れることを決意する。
もう一度コンサルティング業界に戻り、違うものを見たい。伝統的な日本企業の対極にあるPEファンドの世界を「怖いもの見たさ」で知りたい。そう考えてPEファンド案件を数多く手掛けるAlixPartnersを選んだ。
空気は読める。それでも、あえて読まない
入社後には小売業のプロジェクトが続いた。そこで、AlixPartnersの独自性を強く実感した。
以前に在籍したファームでは、ミドルマネジメントと長期的な関係性を構築した上で、変革を進めることが多かった。しかしPEファンドへの支援プロジェクトが多いAlixPartnersでは、限られた時間で経営課題の核心へ踏み込み、企業価値を高める実効性の高い施策を提言することが求められる。時には経営陣にとって耳の痛い事にも敢えて言及する姿勢の厳しさも併せ持たなければ、成果重視のクライアントからの期待には応えられない。
パートナーの同僚からは「林さんは改善点の出し方も甘いし、提言も弱い。もう一歩踏み込まないと付加価値が出せない」と何度も言われた。AlixPartnersがレポートする相手はCEOであり、その先にいるのは株主だ。たとえクライアントのミドルクラスとの関係に軋轢が生まれようとも、CEOが必要とする事実や判断を曖昧にはしない。
「伝統的な日本企業では空気を読むあまり、オブラートに意見を包みます。AlixPartnersは空気を『読めない』のではなく、敏感に読んだうえで、あえて『読まない』。必要なら厳しく、ズバっといく。それがCEOに求められる経営の厳しさにも通じると、改めて実感しました」


物怖じしない自分、目線が高まった
AlixPartnersでの仕事が軌道に乗った頃、経営トップが交代したENEOSから復職の打診が届く。電力事業の立ち上げという過去の役割は終わったが、今度はグループ全体の経営課題に取り組む新たな仕事である。林氏はAlixPartnersを退社し、再びENEOSグループへ戻った。
復帰後、最も変わったのは「核心を突く意見が遠慮なく言えるようになった」こと。以前なら社内の空気を読み、組織で生き残ることを考えると怖くて言えなかったことにも声を上げるようになった。経営の甘えや馴れ合い、予定調和に疑問を呈し、CEOや株主の目線ならどう判断するかを問い直す。長年にわたって社内で見て見ぬふりをされてきた領域に切り込み、変革プロジェクトを立ち上げた。
「ENEOSを一度も辞めずに残った自分と、AlixPartnersに在籍してENEOSに戻った自分を比べると、明らかに数段進化したと感じます。コンサルティングのスキルをリフレッシュしたというよりも、目線が大きく変わりました」
林氏はAlixPartnersで身につくものとして、2つのスキルを挙げる。1つは、緻密なファクト分析に基づいて提言するハードスキル。もう1つは、経営目線、株主目線というソフトスキルである。株主から日本企業への要求が高まり、株主不在の経営が許されなくなるなかで、この目線を持って働けることには大きな価値があるという。
林氏は自身のキャリアを「ハイリスク・ハイリターンなオプションを取り続けた」と振り返る。通信会社からコンサルティングファームへ、そこから電力自由化の最前線へ、50代はじめに再びコンサルティング業界へ。そして2度目の中途入社でENEOSグループへ戻った。
キャリアに残るものの大きさは、在籍年数だけでは測れない。「リスクを取るだけの価値と機会があるなら、迷わず選ぶ」と語る林氏にとって、AlixPartnersでの経験は経営の厳しさを知り、自分の判断を信じて声を上げる力を磨く、濃密な時間だった。
AI時代でも、最後に人を動かすのは、やはり人
AI時代において、コンサルタントという職業の意味は変わりつつある。調査や分析、資料作成の一部は、確実にAIに置き換わっていく。事業会社側も、汎用的な作業まで外部に任せる必要はないと気づき始めている。だからこそ中路氏は、単に「コンサルタントである」だけでは、これからのキャリアの保証にはならないと見る。
重要なのは、自分は何を身につけ、どこで戦うのかを自分で選び取ることだ。「AIは体力が無限、知力でも人間を上回っていくかもしれませんが、人間力はない。重要な意思決定を、AIがこう言ったからそのままやります、とはならないはずです。最後に人を動かすのは、人。その力を鍛える仕事は、これからも残ると思います」
いま中路氏は、そごう・西武の成長に向け、店舗の磨き込み、商品やサービスの刷新、人材登用などに取り組んでいる。改革のコンサルタントから、成長を担う経営人材へ。その移行の土台には、AlixPartnersで培った「人を動かし、実行する力」がある。

略歴
東京大学工学部修了後、通信エンジニアとして国際海底ケーブルの建設などに携わる。UCLAでMBAを取得後、戦略コンサルティングファームを経てENEOS株式会社。事業責任者として電力領域での新規事業の立ち上げおよび業容拡大・企業価値向上をリード後、AlixPartnersに参画。2024年12月よりENEOSホールディングス株式会社の執行理事 Chief of Staffとしてグループの経営企画機能を統括する。
撮影:桑嶋 燦