Interview
アルムナイ・インタビュー
成長してこそ再生といえる。
稲積 憲
ピルボックスジャパン株式会社 代表取締役社長
戦略を描くだけではない、経営として動かす再生

企業を立て直すだけでなく、その先に成長の道筋をつくる。稲積氏のキャリアには、AlixPartnersでの経験を通じて確立された、この一貫した視点がある。「単に危機を脱するだけでは再生とは言えません。会社を『死なせない』ことに留まらず、整理や修正の後に、もう一度成長させる。そこまで行って、初めて再生なのではないか」と稲積氏は語る。
AlixPartnersの存在を知ったのは1998年。まだ日本では社名がほとんど知られていなかった時代に読んだ『日経ビジネス』誌の記事。米国の「再建請負会社」として紹介されていたAlixPartnersの存在に目が止まる。メーカーで新卒入社し、経営によって会社は大きく変わると感じ始めていた頃だった。当時から「いつか経営に挑戦してみたい」という思いが芽生えていた。
その後の海外マーケティングや子会社での経験を通じて、会社を動かすには定性的な仕組みと、数字の両方が必要だと感じた。次に移った大手電機メーカーでは、経営企画や投資管理、コーポレート部門の機能再編などに携わった。
だが、経営者になるためには、戦略を自らつくり、経営視点で動かす経験も必要だと考えるようになる。戦略コンサルティングファームで戦略策定や事業再生案件に携わる経験を経て、AlixPartnersへ入社した。
再生はマルチに動ける経営者の土台をつくる
稲積氏がAlixPartnersで得たものは、事業フェーズや業種を問わず、マルチに動ける経営者の足腰となる凝縮された経験だった。クライアントから見れば極めてレアな経営の重大局面に、プロフェッショナルとして連続して関わる。経営危機、組織変革、成長への転換。一般的な事業会社にいて、そう何度も経験できる事柄ではない。
さらに大きかったのは、業種や規模を越えた経験である。ウェブサービス、B2B、消費財、小売。のちに稲積氏が経営者として関わる領域の多くは、AlixPartners時代に何らかの形ですでに経験していた。重大な意思決定が必要なレアケースを横断的に経験することで、短期間で知見が凝縮されていく感覚があった。
当時30代だった稲積氏が担当したのは、粉飾決算および証券取引法違反事件後のウェブサービス企業の再建だ。所属はAlixPartnersでありながら、実際にはクライアントの中に入り、経営陣の一員に近い立場で動いた。求められたのは、戦略を描くことだけではない。
「組織が健全になっていくように支え、実際に動かす。どんと構えているだけではお客さんは変わりません。手を動かし、口を動かし、体を動かして、組織を動かしていくことが大事です。」


こうした経験を経て強く認識するようになったのが、AlixPartnersの独自性である。戦略を描いて終わりではなく、実行の局面においても踏み込み、経営として企業を動かし切る。
「戦略を描いて終わり、とは対極な価値観です。」
また、興味深いのは、稲積氏が「日本型のAlixPartnersモデル」とも言える考え方を持つようになったことだ。米国型の再建モデルは、まさに潰れそうな企業を死なせずに生き残らせるところに強みがある。しかし日本では、フィーの構造や企業の体力、法制度の違いもあり、同じモデルをそのまま適用できるとは限らない。
だからこそ稲積氏は、単に危機を脱するだけでは不十分だと考えるようになった。会社を「死なせない」ことに留まらず、整理や修正の後に、再成長への道筋をつける。実際、その後に経営を担った数々の企業では、既存事業の整理だけでなく、新しい成長の芽をつくり花咲かせることに取り組めた。コスト削減だけではなく、新たな価値をつくることが再生後の成長には欠かせない。この考え方は今の経営スタイルに非常に大きな影響を与えたと稲積氏は語る。
再生から成長、市場を育てる経営へ──ステークホルダーを動かし続ける
現在はピルボックスジャパンの代表取締役社長として、女性のデイリーケアやセルフケアに関わる消費財事業を率いる。国内ではドラッグストアやバラエティストア、海外では中国を中心に商品を展開。なかでもデリケートゾーンケアを含むフェムケア領域では、市場そのものを育てていくことを経営テーマに据えている。
フェムケアは、社会的意義がありながら、まだ産業として確立途上の領域だ。消費者の理解を広げ、売り場をつくり、商業的にも成立させる必要がある。まさに、経営の力で市場を育てるテーマである。
AlixPartnersのアルムナイ(卒業生)として、稲積氏は「AlixPartnersに向いているのは、自分からステークホルダーを動かしていける人」と言う。与えられたスコープだけに閉じず、クライアント、株主、取引先、パートナーを含めて、どう貢献できるかを考える。密度の濃い経験を、自分にとっても価値ある時間にできる人にとって、AlixPartnersの在職は大きな機会になる。
稲積氏にとって、キャリアパスとは「自分が世の中に貢献できること、そして自分自身が熱くなれることの積み重ね」だ。再生を成長につなげる。組織を健全にし、市場を育てる。その繰り返しは、まさに貢献できることと熱くなれることを選び続けてきた軌跡でもある。

略歴
メーカーやコンサルティングファームを経て、AlixPartnersでライブドアにおいて事件後の再建に携わる。新株主の現LINEヤフーで企業の成長に経営企画等の役員として寄与。同社の会社分割後、現NHN Japanの代表取締役社長として新規事業立ち上げ・成長を実現。その後も事業再建、DX支援事業、EC事業、美容小売事業など多様な領域で経営改革と成長を経営者として手がけ、2024年よりピルボックスジャパン株式会社代表取締役社長。
撮影:桑嶋 燦