アリックスパートナーズ、「2026年版グローバル自動車業界見通し」を発表
【2026年7月7日】 グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本:東京都千代田区、代表:植地卓郎)は、「2026年版グローバル自動車業界見通し」(以下、本レポート)を発表しました。供給の不確実性と貿易リスクが一段と高まる中、車両アーキテクチャおよびサプライチェーンの脱グローバル化が進み、自動車業界は次の時代に確実に移行しています。自動車関連企業は、EV戦略の立て直し、中国勢の存在感の増大、SDV(ソフトウェア定義車両)からAI-DV(AI定義車両)への移行など、目先で対処しなければならない重大な課題に直面しています。
第23回となる今年のレポートでは、2026年には中国および米国といった主要市場で需要が落ち込むと予測しています。中国では国内競争と内巻(過剰競争による収益圧迫)が激化しており、中国の各メーカーが海外市場に成長を求める動きが活発化するとみています。
本レポートの主なポイントは以下の通りです。
· 数十年にわたるグローバル化の後、地政学と中国からの低コスト・高技術車両の台頭に牽引され、脱グローバル化(地域化)の時代が今や着実に定着しつつある。
· 新興市場への参入を目指す中国の野心は、従来の自動車メーカーとサプライヤーの双方に挑戦を突きつけており、欧州における中国ブランドのシェアは16%に達すると予測している。
· 米国における「新たなICE時代」は短期的なキャッシュフローの機会を生み出すと同時に、企業がこの機会を活かせなければ長期競争力が失われるという、存亡に関わる課題でもある。
· 理想的な「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)2.0」とは、メキシコやカナダではなく中国との競争力強化を主眼に置き、米国車両のコスト増を最小限に抑えながら、競争前段階の技術・設備協力によって、関税収入は産業の強靭性と価格競争力の強化に向けた投資に充当すべきである。
· 欧州(ロシアを含む)における中国ブランド車の販売台数は今年25%増の230万台に拡大し、市場シェアは2030年までに16%、2031年には17%に達する見通し30年のプラグインEV車の世界市場シェアは36%に達すると予測している
· 「USMCA 2.0」への対応に伴う隠れたコンプライアンスコストは、年間で1台あたり最大2,000ドルに上る可能性がある
· 2026年の米国新車販売台数は2.5%減の1,580万台に落ち込む見通し。新車購入は一部の高所得者層に限られるものの、2030年までに1,680万台まで回復する見込み
· 中国の販売台数は、今年は10%減の2,460万台に落ち込む見込みだが、30年には2,620万台に回復すると予測している
· AI-DV(AI定義車両)は自動車関連技術の次世代フロンティアであることは間違いないが、それに必要となる主要メモリの需要に占めるデータセンター向けのシェアが28年までに約50%と現在の約2倍に達する見込みであり、自動車メーカーの活用が拡大する局面では半導体コストが急騰する見通しである
· 欧米市場の販売台数停滞を受け、自動車メーカーは防衛、ヒューマノイドロボティクス、エネルギー貯蔵といった隣接分野への多角化を推進するとみられますが、多くの企業はそのために必要な製造規模や体制を持ち合わせていない
販売台数の見通しは市場によって明暗が分かれます。中国は今後数年で緩やかな回復と成長が見込まれる一方、米国と欧州では停滞が続く見通しです。
販売台数への持続的な圧力は、中国市場における外資系メーカーの販売減少をさらに加速させるとみられます。その結果、中国以外の完成車メーカー(OEM)とサプライヤーは、中国での安定収益がなくなり、自国市場での競争力強化に一層注力することが求められています。
米国政府はUSMCA 2.0の推進、関税強化、中国製ハードウェア・ソフトウェアへの規制を相次いで打ち出しています。これにより自動車メーカーは、USMCAに準拠した仕様と、中国の技術・部品を相当量活用した「グローバル仕様」という、二つの製品ラインへの対応を同時に行うことが求められています。
日本市場では、EVの市場シェアが拡大する見通しをまとめています。EVのシェア比率は今年4%に対し、2030年に11%、2035年には30%に達すると予測する見通しです。BYDなど中国メーカーを含む海外OEMの存在感の高まりなどを受け、市場競争の激化とともに、消費者の選択肢が広がることで、BEV価格を少しずつ押し下げていることも要因にあるとみています。
自動車プラクティス・グローバルリーダーのマーク・ウェイクフィールド(Mark Wakefield)は次のように述べています。
「自動車業界の新たな地域化時代の到来により、業界のほぼすべての企業が重大な岐路に立たされています。かつてないほどの激しい変化が続く中、どの市場、技術、パートナーシップに投資するかを慎重に見極めることが求められています。USMCA再交渉は、米国向け車両のコスト増加につながる可能性があります。縮小するパイの中で米国のシェアが拡大する一方、総量は減るという結果になりかねません。しかし一方で、メキシコ・カナダの強みと既存の生産能力を活かしたサプライチェーンを構築し、電池サプライチェーン、半導体、自動運転、電気アーキテクチャといった重要分野での競争前段階での協力体制を米国内で整えることで、米国を中心とした強靭かつ競争力ある産業、いわば『北米要塞』を築く好機ともなり得ます」
本レポートは、各市場が相反する方向に向かいつつある世界の自動車産業を分析しています。中国が電動化に強くコミットする一方、米国は内燃機関車(ICE)およびハイブリッド車の販売が引き続き主流となる「新ICE時代」へと向かう様相を呈しています。ただしこの時代もいずれ転換点を迎えるとみられており、2030年には世界販売の36%がプラグイン電動車両になると予測しています。
自動車・産業プラクティス・グローバル共同リーダーのダン・ハーシュ(Dan Hearsch)は次のように述べています。
「米国におけるICEおよびハイブリッド車の購買層は、短期的には大きな利益機会をもたらします。しかし長期的には重大なリスクになりかねません。保護主義的な壁の内側に安住することで、中国企業が合弁事業、ライセンス供与、その他の間接的な手段を通じて米国市場でシェアを獲得する扉を、結果的に開けてしまうことになりかねません。今回の分析では、中国の自動車メーカーの輸出台数が2025年の710万台から2026年には約1,000万台に達すると予測しています。ただし輸出はあくまで中国勢の海外展開の第一段階に過ぎず、最終的な目標は現地での組立生産とみています。この2段階をつなぐ手段として、一部の保護された市場では技術ライセンス供与、現地委託生産、合弁事業などが活用される見通しです。」
本レポートはさらに、自動車メーカーがすぐに向き合わなければならない長期的な課題にも焦点を当てています。SDV(ソフトウェア定義車両)への移行にとどまらず、次なるフロンティアとしてAI-DV(AI定義車両)へのシフトを予測しています。AI-DVにおいては、車両はOTA(無線通信)アップデートに依存するのではなく、自ら学習し自己修復する能力を持ちます。こうしたアプローチは、製品開発の効率化と車両性能の向上の両面において価値をもたらすと、本レポートは指摘しています。
自動車・産業プラクティス・グローバル共同リーダーのアンドリュー・バーグバウム(Andrew Bergbaum)は次のように述べています。
「よりスマートな車両を開発する競争は、業界の積極的なプレイヤーにとって胸躍る機会をもたらしています。しかしその未来を支える基盤を確保する競争は、大きな課題となるでしょう。半導体は世界で最も争奪戦が激しい車両部品であり、自動車各社はデータセンターや無数のハードウェアメーカーと競い合いながら、適正なコストで十分なチップ供給を確保しなければならない状況に置かれています。」
AIデータセンターの需要がこの移行コストに対する重大な逆風要因となる中、本レポートでは今後3年間でデータセンターが利用可能なマイクロチップ供給量の50%を占めるようになると予測しています。供給上の課題に対処するため、本レポートでは自動車メーカーに対し、パートナーシップの締結、製品工程の抜本的な再設計、そして合弁事業や資本参加を通じた主要テクノロジー企業との連携を図るよう提言しています。
本レポートが普及すると見込むもう一つの戦略は、既存の供給能力を置き換えることなく自動車メーカーに新たな成長経路をもたらす隣接分野への多角化です。対象分野としては、蓄電池エネルギー貯蔵ソリューション、自動化、そして防衛が挙げられます。しかしながら、本レポートは多くの自動車関連企業がこうした機会を活かす準備をいまだ十分に整えていないと指摘しています。
自動車・産業プラクティスDACH(ドイツ・オーストリア・スイス)共同責任者のジン・ジョウ(Xing Zhou)は次のように述べています。
「自動車業界はアフターマーケット、商用車、航空宇宙、パワースポーツといった分野への参入など、長年にわたり多角化に関心を寄せてきました。今後の戦略は、成長を目指す自動車メーカーにとって、市場の魅力度と自社との適合性をいかに見極めるかという均衡を図る取り組みになるでしょう。自動車業界で培った製品知識やプロセスノウハウを他分野に応用できる場合、最大の制約となるのは認証の取得と顧客へのアクセスです。」
自動車・製造業プラクティス・日本リーダーの鈴木智之は次のように述べています。
「今年の見通しでは、各市場が相反する方向に向かいつつある世界の自動車産業を分析しています。中国が電動化に強くコミットする一方、米国は内燃機関車(ICE)およびハイブリッド車の販売が引き続き主流となる「新ICE時代」へと向かう様相を呈しています。ただしこの時代もいずれ転換点を迎えるとみられており、2030年には世界販売の36%がプラグイン電動車両になると予測しています。」