アリックスパートナーズ、最新版『電動モビリティ サプライヤー調査』を発表



22 5月 2026

【2026年5月22日】 グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本オフィス:東京都千代田区、代表:植地卓郎)は、欧州の主要自動車サプライヤーを対象とした最新版「電動モビリティ サプライヤー調査」(以下、本調査)を発表しました。本調査では、欧州自動車サプライヤーの間で、電動モビリティを巡る期待と現実のギャップが鮮明になりました。電動モビリティを「自社にとってのチャンス」と評価する企業は3年間で大幅に低下する一方、多くの企業では内燃機関ビジネスが依然として企業のキャッシュフローを支える不可欠な「収益の柱」となっています。なお、本調査における「電動モビリティ」とは、電気自動車(BEV・PHEV)を中心とした電動パワートレイン関連事業全般を指します。

 

これまで世界的な規制強化と技術革新を背景に、電気自動車(EV)向けの投資と製品開発は加速してきました。 しかし、需要成長の鈍化やプラットフォーム立ち上げの遅れ、価格交渉の厳しさなどにより、サプライヤーにとって電動モビリティは「高成長が約束された市場」から「収益性とリスク管理が問われる事業領域」へと認識が変わりつつあります。

 

本調査は、アリックスパートナーズが2024年に買収したドイツの自動車専門コンサルティング会社であるベリルズ(Berylls)が実施していた調査を引き継ぎ、パワートレイン、E/E、インテリア、エクステリア、車体、ソフトウェアなど幅広いセグメントおよび企業規模にわたる欧州の自動車サプライヤー49社の経営幹部を対象として2025年10月に実施しています。


調査の主なポイント

電動モビリティへの期待が3年連続で低下: 「成長エンジン」から「管理すべきリスク」へ

電動モビリティを「自社にとっての機会」と捉えるサプライヤーは、2023年の77%から直近調査では48%へと約30ポイント低下しました。​代わって、「中立」または「リスク要因」と見る企業の比率が増えており、EVは「成長ドライバー」という見方は後退し、「事業ポートフォリオ上、慎重にリスクマネジメントすべき領域」という認識へ移行しつつあります。特に中堅・中小サプライヤーでは、投資負担と需要の不確実性から、電動モビリティへの積極投資にブレーキをかける動きも見られます。

 

EV生産予測の下方修正による稼働率リスク

主要OEMが発表した2025~2030年のEV生産目標は、2年前の予測と比較して平均20%〜30%下方修正されています。これにより、サプライヤーが先行投資した生産ラインの稼働率低下が深刻なリスクとなっています。

 

内燃機関(ICE)が支える「並行経営」の現実

サプライヤーの71%は、現在も売上全体の少なくとも4分の1をICE関連コンポーネントから得ています。​EVシフトが進む一方で、多くの企業の収益基盤は依然としてICEに強く支えられており、ICEとEVという二つの事業軸を同時に維持・投資する「並行経営」を強いられている実態が浮かび上がりました。

 

マージンへの見通しは「不透明」

「今後、業界全体のマージンプレッシャーはさらに強まる」と見るサプライヤーは約4分の1(23%)にとどまる一方で、35%は「改善の余地もある」と回答。残る42%は「現状維持」と見ており、収益性の見通しは三極化しています。原材料価格の変動、OEMからのコストダウン要求、EV向け部品の立ち上げコストなどが重なり、電動モビリティ領域で安定した利益モデルを確立できている企業は依然として限定的です。

 

中国サプライヤーのグローバル

 中国企業のEVはもはや「安価な代替品」ではなく、技術とコストの両面で業界標準を再定義する存在となっており、欧米サプライヤーにとって最大の脅威となっています。実際、価格競争力において中国サプライヤーに「対抗できる」と答えた欧州サプライヤーはわずか16%にとどまり、84%が価格面で劣位にあると認識しています。また、中国OEM・サプライヤーはより短い開発サイクルで市場をリードしており、技術革新のスピードで欧州を上回っています。こうしたコスト・技術両面での競争圧力が、欧州市場のシェア構造を劇的に塗り替えつつあります。

 

戦略的パラドックス: 自社への自信と迫りくる淘汰の波

90%のサプライヤーが「自社は電動モビリティ時代に向けて十分に準備できている」と回答する一方で、半数以上(52%)が「今後2~3年にサプライヤー統廃合(コンソリデーション)が進む」と予測。多くの企業が、自社の競争力や準備状況を過大評価しているか、あるいは外部環境のボラティリティを過小評価している可能性があり、この認識と現実のギャップこそが最大のリスクだといえます。

 

 戦略的提言

調査で浮かび上がった示唆として、アリックスパートナーズでは次の3点を提言します

 

   アジャイルな資本配分への転換: 特定のパワートレインに依存せず、需要変動に応じて生産能力を即座にスイッチできる柔軟な工場設計へ転換する。

   対中国戦略の再構築: 単なる競合視ではなく、中国のエコシステム(スピード・垂直統合)から学び、競争しながらも補完関係を築く「競争的強調(Co-opetition)」を模索する。

   付加価値の再定義: ハードウェアの単体供給から、システム統合やソフトウェアを核とした高付加価値モデルへのシフトによる収益構造を改善する。

 

 

アリックスパートナーズのパートナー&マネージングディレクターで自動車・製造業プラクティス日本チームリーダーである鈴木智之は次のように述べています。

「欧州のサプライヤーは、電動モビリティへの移行が不可逆であることを十分に理解しています。しかしながら、現在の市場環境では、成長シナリオだけに賭けることは極めて危険です。今求められているのは、内燃機関ビジネスからの収益を原資に、EV向けポートフォリオを慎重かつ着実に再構築していく『バランス感覚』です。」

 

「2025年度版 電動モビリティ サプライヤー調査」の詳細は、こちら(英語)よりご覧いただけます。