私たちが実行したこと

・Pricing

市場の成熟によって大幅な需要成長が見込みにくくなる一方、原材料費などのコストは上昇していました。今回のクライアント企業は、国内外で複数の製品事業を展開するなか、売上の拡大だけに頼らず利益を伸ばす方法を模索していました。そこで経営課題として浮上したのが、製品やサービスが持つ価値を価格に適切に反映するプライシングの見直しでした。

アリックスパートナーズは、国内外の事業を対象に10週間のプライシング診断を実施。価格課題の特定、改善施策の財務インパクトの試算、優先順位付けに加え、実行に向けたロードマップと、すぐに着手できるアクションまで整理しました。顧客の支払い意思を定量的に捉え、製品別のリスト価格、保守部品や修理サービス、海外事業のディスカウント統制を一つずつ検証したプロジェクトです。本プロジェクトをリードした、東京オフィス パートナー&マネージングディレクターの山城和人に聞きました。

 

市場の成熟を、価格の見直しで乗り越える

--このプロジェクトは、どのような背景で始まったのですか。

山城:本件のクライアント企業は国内外で複数の製品事業を展開しています。プロジェクトの対象となったのは大きく二つの事業です。一つ目の測定機器事業は、市場が成熟して大幅な需要成長が見込みにくい一方、原材料費などのコストが上がっていました。もうひとつの医療機器事業においても、事前分析から提供している価値に比べて価格を改善できる可能性があると見られていました。そこで「利益改善の打ち手」としてプライシングを本格的に診断することになりました。

--具体的に、何を行ったのでしょう。

山城:国内外の事業を対象に、まず価格に関する課題を特定しました。次に、課題ごとの解決アプローチを考え、財務インパクトを試算して、どこから手を付けるべきかを整理しました。診断結果だけでなく、具体的にどう直していくかというロードマップと、すぐに着手できる「クイックウィン」のアクションまで落とし込みました。

プロジェクトの期間は、国内と海外を合わせて10週間です。双方においては、扱う製品も市場の構造も異なります。そのため同じ方法をそのまま当てはめるのではなく、事業ごとに価格課題を分けて考えました。国内ではリスト価格とアフターサービス、海外ではディスカウントの統制に、それぞれ大きな改善余地が見えてきました。

 

一律値上げではなく、「顧客の支払い意思」を考える

--精密機器事業のリスト価格は、どのように分析したのですか。

山城:最初に見たのは、顧客が製品の価値をどう捉えているか、そして、その価値に対して現在の価格をどう感じているかです。アリックス独自の手法を用いた定量調査によって、顧客が製品にどれだけの価値を感じるか(知覚価値)と、実際の価格をどう感じるか(知覚価格)を可視化すると、顧客が認める価値に比べ、価格の水準が相対的に低い製品群があると分かりました。製品本体については製品群毎に2~5%pt、保守部品やアフターサービスについては、10%ptを超える利益改善インパクトが試算されました。提供価値とのバランスを取る形で、価格を引き上げる余地があったのです。

--値上げによる顧客離れのリスクは、どう判断するのでしょう。

山城:顧客調査で、価格がどの水準になれば他社製品への切り替えを検討するかを尋ねます。回答を積み上げると、価格の上昇に伴って離脱リスクがどう変化するかというカーブができます。そこに変動費のデータを組み合わせれば、売上ではなく利益を最大化する価格帯を計算できます。

企業が顧客離れや売上減を過度に恐れると、すべての製品を一律に数%上げる。あるいは、現在の利益率が低い顧客ほど大きく上げ、高い顧客はあまり上げないという方法に頼りがちです。しかし、こうしたやり方に共通するのは、「顧客の支払い意思」の視点が抜けていることです。実際には、製品や顧客によって価値の受け止め方が違う。自社側の値上げの必要性と、顧客側の支払い意思という二つの軸で、価格を細かく設定する必要があります。

--保守部品や修理サービスも、同じ考え方ですか。

山城:製品本体とは少し違います。一般的に、製品本体より価格感度が低い傾向があります。なぜなら、まず保守部品は相場が見えにくく、故障時には早く直さなければならないという緊急性があります。また、修理せずに製品を丸ごと買い替える場合の購入費用も、顧客にとっての参照価格になるため、相対的に修理費用が割安に感じられます。こうした仮説のもと、顧客インタビューと社内インタビューを重ね、部品や修理サービスにも価格を見直す余地があると確認しました。

 

インタビューで捉える、データの外にある顧客の本音

--医療機器事業では、どんな課題が見えましたか。

山城:医療機器事業では、リスト価格そのものより、ディスカウントの統制に大きな機会がありました。顧客の規模や将来性、取引条件などを切り分けて分析すると、条件がほぼ同一の案件でも値引き率に最大で30%を超える差異が見られたのです。一方、顧客インタビューでは、製品の価値が高く評価されていることも確認できました。

競争上、値引きが必要な案件はあります。ただ、案件ごとの判断を積み重ねるだけでは、その値引きが妥当かどうかを組織として検証しにくい。どのような条件なら、どこまでのディスカウントを認めるのか。判断基準と運用ルールを整えることで、より一貫性のある価格管理に変えられると考えました。

--顧客インタビューは、なぜ重要なのですか?

山城:代理店などを介して販売していると、メーカーがエンドユーザーの評価を直接、体系的に把握するのは簡単ではありません。実態が分からないままでは、「価格を変えて取引を失ったらどうしよう」という不安が先に立ちます。代理店から値上げを歓迎する答えはなかなか得にくい。だから、匿名性を担保した外部インタビューも使って、本音を聞く必要があります。

インタビューの結果を、社内の声や取引データと突き合わせる。データも一つの切り口だけでなく、顧客や取引の属性から多角的に見る。そうすると、経験や感覚だけではない客観的なメッセージになります。クライアントが提言を受け止め、行動に移すうえでも、この納得感が重要でした。

 

プライシングを、経営課題として動かす

--このプロジェクトで、アリックスの特徴はどこに表れましたか。

山城:定量的な手法と定性的な調査を組み合わせ、価格の最適化ポイントを客観的に示せることです。ただ、数字を出すだけではありません。価格を変えるときには、社内の力学や販売チャネルとの関係が影響します。どこに落とし穴があり、どう進めれば実行できるか。多くのプロジェクトで蓄積した経験を踏まえて、そこまで道筋を示します。

プライシングは、そもそも多くの企業において非常にセンシティブなテーマです。このプロジェクトでは、当社が外部のエキスパートという中立的な立場で、匿名性を担保した上で顧客の本音を聞き出し、それをロジカルにまとめて提示したことで、意思決定の前提となる説得力が生まれたと考えています。こうした中立性と客観性が社内の納得感を醸成し、行動変容につながったのだと振り返ります。

--最終的に、どのような成果が得られたのでしょうか。

山城:プロジェクトでは、製品別の価格、保守部品と修理サービス、ディスカウント統制など、複数の改善機会を財務インパクトと優先順位で整理し、クライアントが自ら動くためのロードマップをつくることができました。現在、ロードマップで規定したプライシングの施策を実行し、利益の刈り取りを行っているところですが、クライアントからは、成果が出始めていると聞いています。

プライシングにより利益改善を達成するためには、プライシングを実務レベルの課題としてではなく、企業価値を高める経営課題として捉えることが重要です。経営層が意思決定に関わり、改革を前に進める姿勢を示す企業ほど、価格施策は実行につながりやすい。現場任せにせず、会社として取り組むことが成果を左右します。

アリックスのプライシング支援は、単に値上げ幅を提案するものではありません。顧客が認める価値を確かめ、製品や取引ごとに適切な価格を見極め、社内や販売チャネルの力学も踏まえて実行可能な形に落とし込む。経験豊富なシニアコンサルタントが、データと顧客の声を結び付け、企業価値向上に向けた変革を支えます。


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