損害算定の観点からは、M&Aと株主間紛争の仲裁は性質の異なるものである。M&A紛争の仲裁における損害算定では、会計、フォレンジック又はコーポレートファイナンスの視点からの分析が中心であり、そこにバリュエーションの問題が加わることもある。一方、株主間紛争における損害算定は、特定の事業の正確なバリュエーションが問題となることがほとんどであり、バリュエーションの方法論が中心的な論点となる。
株主間紛争
株主契約の解除、強制的な少数株主排除(スクイーズ・アウト)、株式非公開化、インサイダーによる株式公開買付け(TOB)、関連者間取引、株主が反対権を持つ企業再編など、株式のバリュエーションが争われるケースは数多くある。これらのケースでは、会社やその会社の(特定の)持分のバリュエーションの正確性について争われることが多い。株主への対価は、市場価値(market value)、適正市場価値(fair market value)、または公正価値(fair value)を参照して決定されることが多い。バリュエーションは一定の手法に従って行われる単純なものにみえるかもしれないが、実務上は重要な論点が多々ある。
バリュエーションは、次の3つの要因により異なった結果になることが多い。第一に、「市場価値(market value)」、「公正価値(fair value)」、「支払価格(price paid)」の意味が混同されていることが多い。第二に、バリュエーション手法には異なる手法が複数あり、どの手法でも類似する結果が得られることもあれば、そうならないこともある。第三に、特定の方法で算定した価値を、個々の具体的なケースの状況に合わせて調整する必要があり得ることである。以下、それぞれについて詳しく見ていく。